技術情報

学術情報

応用例

プラスチック製品とエンドトキシン試験

エンドトキシン試験用の器具としては、ガラス製品が乾熱処理(薬局方では250℃で30分以上行うこととされています)により簡単にエンドトキシンフリーにできることから一般的には使用されています。しかし近年、手軽さなどの理由から、検体を採取または保存するためのチューブやシリンジ類、検体や標準エンドトキシン溶液を希釈するための試験管、反応容器として使用されるマイクロプレート、検体やエンドトキシン溶液を分注るためのピペットチップなどのプラスチック製品が汎用されるようになってきました。薬局方においても「マルチウエルプレート及びマイクロピペット用チップなどのプラスチック製品を用いる場合は、エンドトキシンが検出されないこと及びエンドトキシン試験に対する干渉作用のないことが確認されたものを用いる」と記載され、一般的に広く用いられています。これらプラスチック製品に要求される条件としては,(1)エンドトキシンの汚染がないこと、(2)エンドトキシンや試料を吸着しないこと、(3)エンドトキシンの物性やリムルス試薬(ライセート試薬)の活性化に影響を与える物質が溶出されないことが挙げられます。

プラスチックの材質としてはポリプロピレンおよびポリスチレンが多く用いられており,このうちポリプロピレン製の器具の中にはエンドトキシンを吸着したり、リムルス反応を阻害する物質が溶出するものがあることが報告されています1)。また人工透析治療に使用される透析液をプラスチック容器(特にポリプロピレン製)に採取すると容器表面にエンドトキシンが吸着して、見かけ上測定値の低下が認められることがわかってきました2)。透析液の保存による活性低下と吸着現象の解決策として、当社では安定化剤入りの採取および保存用容器(HDチューブ、ガラス製)を販売しています。

しかし、プラスチック製品へのエンドトキシンの吸着や阻害物質の溶出が疑われた場合に、それらの影響を回避する方法については、上記の安定化剤入り採取管の使用以外にはほとんど議論されていないようです。そこで今回、検体による容器のリンス(洗浄)の効果を確かめる実験をしてみました。

実験1:ポリプロピレンチューブ

エンドトキシンフリーとされている容量15mLと6mLの市販のポリプロピレンチューブ3本ずつに、硬質ガラス製の試験管およびピペットを使用して調製した0.1EU/mLの日局エンドトキシン10,000標準品溶液をそれぞれ4.5mL、1.8mL加え、ボルテックスミキサーで30秒間攪拌しました。別のチューブ3本に同様にエンドトキシン溶液を入れ、30秒間攪拌した後、内容液を廃棄し、新たにエンドトキシン溶液を入れ、30秒間攪拌しました。また別のチューブ3本にエンドトキシン溶液を入れ、30秒間攪拌した後、内容液を廃棄することを2回繰り返した後、エンドトキシン溶液を入れ、30秒間攪拌しました。それぞれの溶液をリンス0回、1回、2回の液とし、50μLずつを当社エンドトキシン測定用のポリスチレン製マイクロプレートに採り、エンドトキシン活性を当社エンドトキシン特異的試薬、エンドスペシー(R) ES-50Mを用いウェルリーダーSK603で測定しました。対照としては乾熱処理した硬質ガラス試験管に採ったエンドトキシン溶液を、また盲検体としては注射用水を用いました。ガラス試験管中のエンドトキシンの活性を100%とした相対値を下表に示しました。

両チューブに注射用水を入れて回収した最初のリンス液の値は盲検体の値と同じでした。

ポリプロピレン製品
検体
リンス回数
エンドトキシン活性
(相対値)
15mL容チューブ(A社)
0.1EU/mL
注射用水 
0
1
2
97.1±0.9%
100.1±2.6%
99.7±1.4%
6mL容チューブ(B社)
0
1
2
62.9±4.2%
88.2±1.2%
97.6±4.5%

また最初のリンス液に1/10容の1.0EU/mLの標準エンドトキシン液を添加して測定した値はガラス試験管中の注射用水に同様にして調製した溶液の測定値と同じでした(生データは示していません)。したがって、今回調べた2種のポリプロピレン製チューブには(注射用水で溶出される)エンドトキシン汚染は無く、またリムルス反応を阻害したり、促進したりする物質は溶出されていませんが、6mL容のチューブにはエンドトキシンの吸着が見られます。し かしこの吸着による影響は検体であるエンドトキシン溶液を入れて2回リンス(洗浄)することにより、ほとんど回避できることが分かりました。

実験2:ポリプロピレン製ピペットチップ

エンドトキシンフリーとされている容量200μLのピペットチップを用いて、注射用水あるいは薬液に0.05EU/mLとなるように日局エンドトキシン10,000標準品を添加した溶液を50μL吸引し、マイクロプレートに吐出しました。同一チップを用いてこれを2回繰り返し、各回の溶液をリンス0 回、1回、2回として、そのエンドトキシン活性を実験1と同様に測定し、対照としてガラスマイクロピペットを用いて操作した場合に対する相対値を求めました。各薬液について6本のチップを用いて測定し、リンス回数毎に6本の平均値と標準偏差を求めました。

ポリプロピレン製品
検体
リンス回数
エンドトキシン活性
(相対値)
ピぺットチップ(C社)
0.05EU/mL
注射用水
0
1
2
69.4±7.7%
95.4±4.6%
101.2±2.2%
0.05EU/mL
生理食塩水、x1/10
0
1
2
82.3±12.4%
95.9±3.9%
95.9±2.6%
0.05EU/mL
リンゲル液、x1/10
0
1
2
88.6±5.6%
96.6±3.3%
99.1±4.1%
0.05EU/mL
0.25%アルブミン溶液
0
1
2
103.8±6.2%
103.5±5.5%
102.1±2.4%
0.05EU/mL
透析液
(安定化剤添加)
0
1
2
100.7±6.0%
97.1±3.2%
97.3±3.5%

リンスしない場合のエンドトキシンの吸着率(あるいはリムルス反応の阻害率)は注射用水中で最も高く、また薬液の種類によって異なりましたが、吸引吐出すなわちリンスを2回行った後には、ガラスマイクロピペットを使用した場合とほぼ同一の値が得られました。なお、データは示しませんが、同じチップの洗液にエンドトキシン標準液を添加して調べた結果、リムルス反応を阻害したり促進したりする物質は溶出されていません。

今回は日局エンドトキシン標準品を用いて検討しましたが、検体中のエンドトキシンの種類によっては疎水性が強いなどしてプラスチックへの吸着がより強いものがあることも予想されます。プラスチック製品について、エンドトキシンの吸着や阻害・促進物質の溶出がないことが保証されていない場合や、プラスチック製品へのエンドトキシンの吸着やプラスチック器具からの阻害・促進物質の溶出が疑われる場合には、今回述べたリンス(洗浄)操作をぜひ試していただきたいと思います。

1) LAL Update, Volume 6, No. 3, pp. 1-3 (1988) Associates of Cape Cod, Inc.
2) LAL Topics, No.8 (2006.11) 山本千惠子 人工透析治療におけるエンドトキシン測定の展開(3)、生化学工業株式会社