技術情報

LAL Topics

No.01(2006.4)

LALトピックスの編集・発行にあたり

生化学工業(株)
機能化学品営業部
担当部長 田村弘志
Hiroshi Tamura,Ph.D.
はじめに

リムルステストは、生きた化石とも言われる節足動物のカブトガニ(剣尾類;北米産Limulus polyphemus/アジア産Tachypleus tridentatusなど)の血球細胞抽出液(LALあるいはライセート)が極微量のエンドトキシン(グラム陰性菌内毒素、以下Et)によってゲル化することを利用したEtの検出法です。
半定量的なゲル化法と定量的な比濁法および合成基質法が知られており、ウサギ発熱性試験に比べ、はるかに感度が高く、簡便で再現性の良いin vitro試験法(Et試験法)として、医薬品、医療機器の安全性向上や敗血症病態の解明等に大きく貢献してきました。
薬局方の局間での同試験法の調和はPDG(日米欧三極薬局方会議)で最終ステージまで進み、1999 年秋に調和合意が達成されました。

一方、ライセートは、Et以外にも極微量の真菌細胞壁成分 [(1→3)-β-D-グルカン、以下BG ]により活性化されることが明らかとなり、カブトガニ血液にはバクテリアおよびカビの成分を鑑別する非常に鋭敏な自然免疫系センサーが備わっていることがわかりました1)。
筆者らのグループは、EtあるいはBGにのみ反応する凝固因子系を再構成することにより、それぞれに特異的な高感度LAL試薬(エンドスペシー(R) 、ファンギテックGテスト)の開発に世界に先駆け成功し、医薬品の品質管理、研究開発、臨床検査などで広くご使用いいただいております。
とくに、当社の技術により開発されたBG特異的LAL試薬は、医薬品や医療材料等に混入するBGの測定のみならず、深在性真菌感染症の早期診断(補助診断)や経過観察、治療効果の判定に有用で、近年は、FDA認可を取得したグローバルな検査薬としての更なる発展が期待されております2)。

半世紀にもおよぶ長い研究史のなかで、LALを構成する一連の凝固酵素分子のクローニングとカスケード機構の解明、多様な生物活性をもつEt(合成lipid A 類縁体)の構造活性相関、Et認識分子機構の解析など特筆すべき研究成果が輝いております。
これら岩永貞昭先生、芝哲夫先生、楠本正一先生、三宅健介先生らの功績は、日本が世界をリードした研究領域のなかでも、医学・製薬産業への貢献度が高く、注目に値する業績といえます。
LALトピックスでは、LAL試薬のユーザーの皆様や活用をご検討中の方々のために、当分野に関連した話題をシリーズでご紹介いたします。
次回からは、第一線でご活躍の先生方にご執筆頂き、皆様の研究や日常の医療、ビジネスに少しでも役立てていただけければと願っております。

生体防御系を基盤とする技術開発と将来展望

無脊椎動物の生体防御機構を担う自然免疫の役割は、感染微生物の細胞壁成分を標的とする感染初期の食細胞や異物認識機能にあります。
最近では、脊椎動物のT細胞、B細胞の活性化にも自然免疫が重要な働きをもつことも明らかになっております。
これらの標的分子のなかでは、lipid Aを活性中心とするEtの生物活性は非常に多様で、生体レベルでは、発熱性、シュワルツマン反応、Etショック、血液凝固、補体活性化、免疫賦活化、免疫抑制、抗腫瘍活性など、細胞レベルでは、マクロファージの活性化、B細胞の活性化、サイトカインの産生など多岐にわたります。
また、真菌由来のBGにも強力な免疫薬理作用や免疫毒性を有することが知られております。

カブトガニの体液凝固は、EtやBGにより誘発される生体防御反応のなかでは、最も鋭敏なシグナル伝達系により構成されており、pgオーダーという極微量の標的成分の混入をも見逃しません。
Et感受性因子(Factor C)が、Etの存在下で自己触媒的に限定水解され、活性型C因子へと変換され、複数のセリンプロテアーゼが順次活性化される巧妙な増感作用を有するからです。

一方、カイコ等の昆虫血液も、黒色色素(メラニン)合成によるカビやバクテリアに対する主要な生体防御機構をもつことが知られており、グラム陽性菌のペプチドグリカンやBGにより惹起されるフェノール酸化酵素前駆体の活性化反応もそれぞれに特異的な反応系が確立されれば、鋭敏なセンサーとして期待されます。
近年は、異物認識に関わる自然免疫系の比較研究も進みつつあり、またEtやBG(zymosan)を認識し活性化シグナルを伝達するToll-likeリセプター等の応用も含め、新しい局面が開かれる可能性もあります。

このように、免疫担当細胞の応答能を利用した応用技術の他に、標的分子類の結合に基づく新しいセンサー、遺伝子組換えによるLALの再構成など次世代の革新的技術が報告されております。
技術および製品の成熟度や標準化の方向など課題も多くありますが、実用化に向けたイノベーションテクノロジーとして今後の飛躍が期待されます。

LALトピックスの位置づけ

本トピックスでは、EtとBGのもつ多様な生物活性、生体防御と抗菌物質3)、受容体の機能と免疫応答、測定システムの進歩と応用など最新情報を交えてご紹介したいと思います。
LAL試薬は、医薬品の開発ならびに品質と安全性の向上のみならず、臨床検査医学の領域において大きな貢献をはたして参りましたが、環境・食品衛生や生活衛生、ゲノム医療・再生医療などの先端医療などにおいても広いニーズを有すると期待されます。
本トピックスでは、これらの領域においても最新の話題を提供させていただくとともに、皆様からのご意見や要望などを新製品・技術開発につなげて参りたいと考えております。

文献

  1. Muta, T. & Iwanaga, S.:The role of hemolymph coagulation in innate immunity. Curr. Opin. Immunology 8:41-47,1998
  2. Finkelman, M. & Tamura, H.: Detection and measurement of (1 → 3)-β-D-glucan with limulus amebocyte-based reagents, In; Toxicology of 1 → 3-Beta-Glucans. Glucans as a marker for fungal exposure.(ed. By Shih-Houng Young & Vincent Castranova), p.179-197. CRC Press, Taylor & Francis, Boca Raton (2005)
  3. 長岡功, 田村弘志, 平田陸正:内因性抗菌ペプチドを用いた感染症治療を目指して. 化学療法の領域 21(12): 105-112, 2005