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No.06(2006.9)

人工透析治療におけるエンドトキシン測定の展開(2)

山本千恵子女史写真
北九州バイオフィジックス研究所
山本千惠子
Chieko Yamamoto,Ph.D.

【水質管理の実際とエンドトキシン基準】

臨床現場において通常の血液透析療法に使用する透析液のエンドトキシン基準としては、日本透析医学会が50EU/L未満とすることを推奨している(文献1)。値の線引きに十分な科学的根拠があるわけではなく、実行可能な最大許容管理値として便宜的に定められているものと理解していただきたい。50EU/L未満という値は、原水の汚染度が比較的軽度な場合や逆浸透装置の性能が優れている場合には、ワンステップで到達可能なレベルである。ただし、供給配管系で細菌増殖が起こらないように配管を流体力学的に単純化することや適格な消毒法を行わなければならない。特に、システムが間欠的にしか使用されないことを考慮し、非稼働時には全配管系を消毒状態で待機させなければならない。ワンステップの逆浸透のみでは50EU/L未満のエンドトキシン値を到達できないケースも少なくないが、この場合は逆浸透に加えて限外濾過処理を行う必要がある。限外濾過膜は透析膜と同次元の細孔特性を有し、原理的にエンドトキシンに対して100%不透過であるわけではないが、安定的に10-4程度には低減することができる。

 さて、実際に清浄な透析液を調製するためのポイントをいくつか紹介したい。基本の第一はまず性能の良い逆浸透装置(ETリーク率が0.01%以下)を導入することであるが、既存の装置でも水質を改善する方法はある。逆浸透水は膜モジュールからのリークにより多少の細菌を含んでいるので(文献2)、ON/OFF運転を繰り返す装置であれば初期抜水機構を取り入れる。この機構によりOFF時に逆浸透水供給配管系で停滞により細菌汚染が増大した可能性のある逆浸透水を排出することができる。また、治療終了後に逆浸透タンクは完全に排水して空の状態で翌日まで待機する。そうすれば日々進行する二次汚染を最小限に抑えることができる。これは原液タンクの管理にも共通して言えることである。原液タンクの場合はさらに使用後の消毒・洗浄が必須である。次に全ての配管系からデッドスペースを排除して流路を単純化する。デッドスペースは細菌が繁殖する温床になるからである。細菌汚染となりうる配管構造にはデッドスペース以外にも、屈曲、分岐、接続部の段差、高低差などがある。また、先にも述べたように連日治療終了後の夜間など長時間にわたり透析液配管系をやむなく停滞させる場合は逆浸透水の代わりに消毒液を充填して細菌の増殖を防止するという方法が有効である。基本的に逆浸透水タンクでの2次汚染を完全に防止しなければならないという観点からタンク後のユースポイントすなわちセントラル透析液供給装置および重曹末溶解槽への供給配管に限外濾過フィルターを装着するのも有効な手段である。この場合フィルターの管理には注意を要する。そして、最終的にもっと清浄度の高い無菌に近い透析液の供給を目的とするならば、コンソールの透析液供給ポンプ後にエンドトキシンカットフィルターによる限外濾過処理工程の追加が必要である。限外濾過フィルターは原則として部分濾過とし、消毒洗浄をルーチンで行う。また、フィルター内の空気トラップは汚染スペースとなりうるためチェックが必要である。透析医学会の基準を守るためには逆浸透装置から末端の回路まで適切に管理することが必要となる。

 以上の原則に基づいたシステムを取り入れた上で、定期的にエンドトキシンを測定して水質管理を行うが、日本透析医学会や後述するISOの基準では測定を月1回実施するように定められている(文献3)。採取箇所も指定されているが、汚染が認められた場合には汚染部位特定のための追加検査が必要となる。汚染源として疑わしい部位の上流と下流を同時にサンプリングしてエンドトキシンを測定する。汚染源の下流ではエンドトキシン値が上昇するので汚染部位を特定することが出来る。また、trend analysisによるシステム障害の早期発見を心がけるとよい。

 近年、透析液の水質に関する国際的な標準化の試みがISOを舞台として論議されている。ISOの目的は合意を得た国際的な基準を満たす装置や薬剤の輸出入に関する非関税障壁の撤廃である。各国の思惑が交錯するのは当然として、日本と欧米では微生物汚染の評価に対する伝統的立場がやや異なる。日本ではエンドトキシンが重視され、一方欧米では細菌数定量検査が重視されてきた。エンドトキシンは透析液中で均一に分散しているので測定値の変動係数は小さいが、細菌数定量検査では細菌分布のムラを反映して安定した結果が得られにくい。水質のグレードの評価としてはエンドトキシン測定の方が優れており、細菌数定量検査は無菌確認に適している。また、細菌数はシステム評価に有用で細菌が検出されれば汚染増強のポテンシャルを表す。通常の透析であれば、細菌が透析膜を透過することはないので、透析膜を透過しうるエンドトキシンを測定する方が患者の安全を確保する観点からは重要である。日本のリムルスキットは欧米のキットよりはるかに感度が優れている。以上、日本の従来の立場の方が合理的に思われるが、今後の国際的コンセンサスの動向にも注目する必要があろう。

図1
図1(クリックで拡大します)

文献

  1. 川西秀樹ら:新たな透析液水質基準と血液浄化器の機能分類.透析会誌38(2):149-154, 2005
  2. 金成泰ら:実践的アプローチ-透析液水質管理&オンラインHDF. p.73-118メディカルレビュー社
  3. ISO/CD 23500草案, 2006