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No.08(2006.11)

人工透析治療におけるエンドトキシン測定の展開(3)

山本千恵子女史写真
北九州バイオフィジックス研究所
山本千惠子
Chieko Yamamoto,Ph.D.

菌種によるリムルス活性の差
 大多数の透析施設で使用される人工透析用水は水道水から調製されるため、透析液に含まれる細菌のほとんどは水道水に由来するものである。これらの水生菌に由来するエンドトキシンは大腸菌(USP-RSEはE.coli O113株から精製されている)に由来するエンドトキシンに比較して単位重量当たりの活性値が低いことがわかっている(図1、文献1)。エンドトキシンはグラム陰性菌の外膜の最外層を取り巻くリポ多糖体(LPS)であり、リピドA、コア多糖体、O-多糖体から構成される。エンドトキシンの活性本体はリピドAであるが、菌種により脂肪酸の構成が若干異なっている。また、多糖成分がその活性発現を様々に修飾することも知られている。つまり、菌種によって各成分の構造が若干異なっており、これがリムルス活性の差の原因と考えられている(文献2)。

リムルス試薬の性能

 逆浸透水を測定した際、使用するリムルス試薬によって同じサンプルでも異なる値が出ることから、同じ菌種に由来するエンドトキシンでも試薬によって反応性に差があることがわかっている。リムルス試薬は世界中で複数の会社が製造販売しているが、ライセートの精製方法により測定サンプル中に共存する塩や金属イオンによる測定干渉の程度が異なり、検出法(合成基質法、比濁時間分析法、ゲル化法など)の違いにより検出感度が大きく異なる。また、透析液のエンドトキシンは保存により活性低下が認められ、プラスチック容器(特にポリプロピレン製)に採取すると容器表面にエンドトキシンが吸着して見かけ上、測定値の低下が認められることもわかってきた。保存による活性低下と吸着現象の解決策として安定化剤の開発が進められた。1996年にHDF研究会から透析液エンドトキシン測定に関するバリデーション草案が出され、これに呼応して生化学工業のエンドスペシー(R) および安定化剤がバリデーションに適合する試薬の第1号として報告された(文献3)。

エンドトキシンと細菌数の関係

 水質基準として採用されている細菌数とエンドトキシン値に直接的な因果関係はない。例えばISO/CD23500の水質基準によれば透析用水および透析液は細菌数100CFU/ml未満、エンドトキシン活性250EU/L未満となっているが、透析液の中に細菌が100個存在した場合にエンドトキシン活性がいくらになるか、これまで検討された報告例はほとんどなく、透析液に含まれる細菌の種類によっても異なるはずである。自施設の活性炭処理水から分離されたグラム陰性菌を使って検討したところ、分離されたグラム陰性菌に熱を加えて細胞破砕処理を行うと細菌1個あたり4.8EUの活性を持つという結果になった。この結果によると細菌数定量よりもエンドトキシン測定の方が高感度であると言えよう。ただし、細胞に熱が加わらず生菌が全く障害を受けずに存在する場合、細菌1個ではエンドトキシンは検出されなかった。水質基準の策定においてはこのような両者の定量的関係も考慮に入れるべきであろう。ISOの超純度透析液や補充用透析液の細菌数の基準は製薬業界(注射薬)における無菌の定義を援用して定められたものであり、個別の透析施設での厳密なシステム管理が要求されている。一方、エンドトキシン許容値は30EU/L未満とアメリカにおけるゲル化法リムルス試薬の検出限界値となっている。日本のリムルス試薬は1.0 EU/Lまで検出可能であることと比較すると、ISOのエンドトキシンフリー水準は格段に緩い。

検査の意義を比較する

 細菌数とエンドトキシン測定値をもって水質評価をするにあたっては、両者の使い分けが必要である。透析液のエンドトキシン汚染は水道水に由来する一次汚染と逆浸透装置以後の配管内で細菌が増殖することで発生する2次汚染とに分類される。一次汚染のみの場合は水道水からリークした高濃度のエンドトキシンと少数の細菌を含むことから、エンドトキシン測定の方が水質評価の指標として有用である。しかし、2次汚染が混在する場合は細菌とエンドトキシンの両者が検出される。2次汚染は生菌の増殖を意味することから、細菌培養の方が感度が高いこともある。また、グラム陽性菌や真菌の汚染巣がある場合はエンドトキシン測定だけでは検出できないため細菌培養が水質評価の助けとなる。ただし、透析回路内から採取した検体にこれらの菌が検出される原因としては検体採取時や検査時のコンタミネーションであることが多い。細菌数定量検査は結果判明に1週間以上を要することから、リアルタイムで透析液を調製して治療に使用する医療現場での水質評価には不適で、どちらかと言えばシステムの妥当性評価の際に有益な情報を与える。いずれにしても、細菌数とエンドトキシン活性の双方を適材適所でモニターし、両者の特性を正しく理解することにより透析液調製システムの性能や管理状況を監視することが出来ると理解すべきであろう。

図1
図1(クリックで拡大します)

文献

  1. 相沢真紀ら:新規エンドトキシン特異的比色法リムルス試薬の性能.腎と透析55巻別冊HDF療法'03:68-70,2003
  2. 中野昌康・児玉正智編:エントドキシン新しい治療・診断・検査. p45-59 講談社サイエンティフィック
  3. 渡辺真紀ら:透析液エンドトキシン安定化方法. 臨床透析12巻別冊HDF療法’96:149-156,1996