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No.10(2007.2)

透析液等の水質管理基準ISO 23500の動向及びそのエンドトキシン関係の背景

酒井良忠氏写真
日本医療器材工業会/人工腎臓部会
ISO担当委員
酒井 良忠
Yoshitada Sakai.

透析用水及び透析液の水質管理に関する国際基準案ISO 23500 : Fluids for haemodialysis and related therapies について、2004年1月から吟味が重ねられている。この基準案は、主に透析施設が行うべき日常管理の基準を示しており、言わばソフト基準である。また、この基準の基になる各種のハード基準:粉末製剤を含む濃厚液に関するISO 13958 : Concentrates for haemodialysis and related therapies、透析用水に関するISO 13959 : Water for haemodialysis and related therapies、透析用水浄化システムに関するISO 26722 : Water treatment equipment for haemodialysis and related therapiesも平行して吟味されている。前2者は23500の動きを受けた既存基準の改訂案である。これら一連の基準では、透析用水あるいは透析液の化学的汚染、微生物学的汚染の基準値を示し、23500では日常的なモニタリングの検査項目、頻度、検査方法も示し、26722では清浄化システムで用いられる個々の装置に止まらずに装置を繋ぐ配管についても、あるべき姿を示している。

ISO基準作りでは、NWI(新規基準提案)、CD(委員会案)、DIS(ISO基準案)、FDIS(最終ISO基準案)と原則として1年ごとにステップアップされる。23500については、2006年にはDISまで進んでいたが、他の関連基準と歩調を合わせるべく2006年年会で、CDに差し戻すことになった。よって、現時点でこれらの4基準は全てCDであり(正確には23500を基準値引用部とモニタリング部に分割することになり、合計5基準)、今後DIS、FDISを経て、2009年末頃に成立する見込みである。

 基準の中で国内でもこの数年関心が高くなっている微生物学的基準値及びそのモニタリングについて、今までの変遷を表に示す。

 
CD 23500 (’05)
DIS 23500
(’06)
2006協議結果 (’07)
コロニー数
透析用水
透析液

超純粋透析液
注入用透析液

< 100 CFU/mL(Action level 50 CFU/mL)
< 100 CFU/mL(Action level 50 CFU/mL)

< 0.1 CFU/mL
< 10-6 CFU/mL

同左
同左

同左
同左

(未発行、同左か)
≦100 CFU/mL
(Action level 50 CFU/mL)
≦0.1 CFU/mL
無菌保証水準< 10-6
協議を受けたNWIでは
無菌(sterile)
培養条件
TSA,SMA,TGYE: 35℃、48時間
(AnnexでTGEA,R2A, 23~28℃、7日、等)
TGEA,R2A,MEA 17~23℃, 7日
TGEA,R2A or equivalent 17~23℃, 7日
エンドトキシン
透析用水
透析液
超純粋透析液
注入用透析液

< 0.25EU/mL
< 0.25 EU/mL
< 0.03 EU/mL
< 0.03 EU/mL

同左
同左
同左
同左

(未発行、同左か)
≦ 0.5 EU/mL
≦ 0.03 EU/mL
無パイロージェン(nonpyrogenic)
モニタリング頻度
透析用水
透析液
超純粋透析液
注入用透析液

月1回
月1回2マシン以上、年に全機
月1回(他は同上の模様)
業者がバリデート

同左
同左
同左
同左

(未発行、同左か)
(未発行、同左か)
(未発行、同左か)
同左

注:表中の<と≦はそれぞれ原文のless thanとnot more thanを表している。=がある場合と無い場合とで意味が大きく違うとの意見もあるが、微生物学分野では倍/半分は差とは見ていず、桁が違って初めて違うと認定することが多い。

 本基準案でのエンドトキシン(ET)関係について、その背景は以下のとおりである。

 エンドトキシンの基準値が、国内学会等で提示されてきた基準値に比べて、かなり高い値に設定されている。最近の基礎的あるいは臨床的検討で、エンドトキシンがより低い方が望ましいことが示されているが、各国で日常的に利用できる検査法を考えると、表にあるようなエンドトキシン基準値にせざるを得ないという事情がある。即ち海外で使える安価で扱いやすいキットの最高表示感度が0.03 EU/mLであるからである。例えばACC社(Associates of Cape Cod)のパイロテル(FDA承認品)などがこれに該当し、表示感度が0.03、0.06、0.125、0.25、0.5 EU/mLのバイアルが市販されている。国内においては、高感度法(検出限界0.001 EU/mL)が普及しているが、実際にエンドトキシンを測定している施設は、今なお全施設の約半分にも満たないと推測される。

 ISOの最新内容では透析液のエンドトキシン基準値が0.25 EU/mLから0.5 EU/mLに引き上げられた。これは、透析濃厚液(透析原液)の基準で、エンドトキシンフリーの水を使って溶解した時に0.25 EU/mL以下、と規定されており、一方、透析用水では 0.25 EU/mL以下と規定されているので、仮に0.25 EU/mLの水で溶解した場合には、0.5 EU/mLまで容認せざるを得ないと説明されている(より詳細には下記注参照)。透析液の基準値を0.5 EU/mLとしているのは、他にフランス厚生省の推奨基準(2000年版)、ドイツの学会基準(2006年版)でも見られる。

注:
透析液のエンドトキシン基準値が0.5 EU/mLとなる詳細な説明
透析濃厚液(透析原液)量:α、透析用水量:βとして式を用いて説明する。
透析液規格値={[0.25EU/mL×(α+β)/α×α]+[0.25EU/mL×β]}/(α+β)
ここに、分子の第1項:透析液に持ち込まれる透析濃厚液由来のET量、
(透析用水由来ET量は含まず、濃厚液を調製するAおよびB沫(原液)中のET量のみ)
分子の第2項:透析液に持ち込まれる透析用水由来のET量。
(透析濃厚液及び透析液を調製する際に使用する透析用水中のET量のみ)
上の式を書き直すと、=0.25EU/mL+0.25EU/mL×(β/(α+β))となり、βはαの34倍であることが多いので第二項は0.25EU/mLに近く、
全体としては0.5EU/mLに近い。
A液、B液共に粉末の場合には、0.5EU/mLになる。

 

 エンドトキシンの測定法については、ISOで6種類の方法を認めている。ゲル化法では限度試験法と定量試験法の2種、比色法及び比濁法それぞれでエンドポイント法及びカイネティック法の合計4種であり、これらは日米欧の三極合意内容でそれぞれの薬局方に収載されている。上記の海外で使われている簡便なキットはゲル化法の限度試験法に該当し、日本で用いられている高感度法は、比色法又は比濁法で共に定量試験法である。

 ISOの動向に関連して各施設が考えるべきなのは、先ず自施設が国際基準から見てどのような位置にあるのかを知る必要があり、細菌検査やエンドトキシン検査を一旦はISO並みに頻度を上げて検査する必要がある。問題が無いデータが持続的に維持できていることが確認されれば、以降は検査頻度を下げていくことも可能である。