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No.12(2007.10)

市販のスーパーオキサイドディスムターゼ及びカタラーゼに混在するエンドトキシン

久保田 善久氏写真
独立行政法人放射線医学総合研究所
環境放射線影響研究グループ
チームリーダー 久保田 善久
Yoshihisa Kubota, Ph.D.

  X線のような電離放射線による生物影響、例えばDNA切断、細胞増殖阻害、アポトーシス、炎症、癌などの発生に活性酸素種(ROS: Reactive oxygen species)が重要な役割を担うことが明らかになっています。スーパーオキサイドを過酸化水素と酸素に変換するスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)及び過酸化水素を分解するカタラーゼはROSスカベンジャーとして以前から研究に利用されてきました。私たちの研究室では、C3Hという系統のマウスでのみ、放射線によって顕著なアポトーシスがマクロファージに引き起こされることを発見し、そのメカニズムの解明のための研究を行ってきました(文献1-4)。

 マクロファージの放射線誘発アポトーシスが放射線によるROSの発生に起因するかを調べるためにマクロファージを市販のSODやカタラーゼで処理したところ、放射線とは関係なく、マクロファージが活性化したと思われる形態変化が顕微鏡で観察されました(図1)。マクロファージの活性化の指標として一酸化窒素の産生量を測定したところ、ポジティブコントロールとして使用したLPSに匹敵する量の一酸化窒素がSODやカタラーゼ処理により産生されました。また、SODやカタラーゼ処理の影響はLPSアンタゴニストであるポリミキシンBにより中和されないが、100℃ 10分の熱処理に抵抗性であること(SOD、カタラーゼの酵素活性は熱処理により失活する)、TLR4が変異しているためにLPS低応答性であるC3H/HeJマウスのマクロファージではSODやカタラーゼ処理にも応答しないことが分かり、エンドトキシン様物質がSODやカタラーゼ試料に混入していることが示唆されました。LPSアンタゴニストであるポリミキシンBによりSODやカタラーゼ処理の影響が阻害されない原因は解明していませんが、ある種のグラム陰性菌、例えばサルモネラ菌に由来するエンドトキシンはポリミキシンBによってスカベンジされないことが報告されているので、実験に使用したSOD、カタラーゼに混入したエンドトキシンはそのようなグラム陰性菌に由来している可能性が考えられます。

 和光純薬とシグマ社から販売されている数種類のSODとカタラーゼを購入し、生化学バイオビジネス(株)のEndospecy ES-50M Setによりエンドトキシンを定量したところ、驚くことに多くの市販のSOD、カタラーゼ試料にエンドトキシンが混在していることが分かりました(図2)。現在、種々の生物から抽出されたSOD、カタラーゼが市販されていますが、牛の赤血球と肝臓から抽出されたSOD、カタラーゼが、最も広く使用されています。敗血症の動物から抽出されたSOD、カタラーゼはエンドトキシンで汚染する可能性がありますし、また、屠殺体やその臓器が不適切に放置された場合も細菌の繁殖を許し、エンドトキシンの汚染が起こります。さらに、SOD、カタラーゼの抽出、純化の過程でも汚染の可能性はあります。細菌由来のMn-SOD、Fe-SODはエンドトキシンで高濃度に汚染しており、細菌からSODを純化する過程でエンドトキシンを完全に除去することは困難であると思われます。一方、酵母で作られた組換えSODではエンドトキシンをほとんど検出できませんでした。

 本研究で、市販のSOD、カタラーゼの多くがエンドトキシンで汚染していることが分かりましたが、SOD、カタラーゼに限らず動植物の臓器、器官から抽出、純化した物質を実験材料として用いる場合エンドトキシン混在の可能性を常に考慮し、エンドトキシン汚染の無い材料を選別して実験を行うか、エンドトキシンで汚染している場合は実験結果を慎重に解析する必要があります。

図1
未処理
SOD+カタラーゼ処理
図1
(クリックで拡大します)

図2
図2
(クリックで拡大します)

文献

  1. Kubota, Y., Takahashi, S., Sato, H., Suetomi, K. and Aizawa, S.: Radiation-Induced Apoptosis in Peritoneal Resident Macrophages of C3H Mice, Journal of Radiation Research, 45(2), 205-211, 2004
  2. Kubota, Y., Takahashi, S. and Sato, H.: Significant contamination of superoxide dismutases and catalases with lipopolysaccharide-like substances, Toxicology In Vitro, 18, 711-718, 2004
  3. Kubota, Y., Takahashi, S., Sato, H. and Suetomi, K.: Radiation-induced apoptosis in peritoneal resident macrophages of C3H mice: selective involvement of superoxide anion, but not other reactive oxygen species, International Journal of Radiation Biology, 81(6), 459-472, 2005
  4. Kubota, Y., Kinoshita, K., Suetomi, K., Fujimori, A. and Takahashi, S.: Mcl-1 Depletion in Apoptosis Elicited by Ionizing Radiation in Peritoneal Resident Macrophages of C3H Mice, Journal of Immunology, 178(5), 2923-2931, 2007