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No.13(2008.1)

感染症医の立場からみた我が国の深在性真菌症の現状と問題点(2)
外因性感染を起こすCandida

菊池賢氏写真
順天堂大学医学部
感染制御科学 准教授
菊池 賢
Ken Kikuchi, M.D., Ph.D.
Candidiasisにおける内因性・外因性感染

 病院感染は定義上、入院48-72時間以降に発症した感染症とされ、起因微生物が病院で獲得されたものかどうかを問わない。即ち、内因性感染であっても、入院中の医療行為を契機に発症した感染症は病院感染に区分される。実際、病院感染源の内因性、外因性を鑑別することは困難であるが、それが明らかになれば、感染対策は自ずと違ってくる。病院内に同時に多発する感染症のアウトブレイクは外因性感染であることが多く、問題となっている感染源と伝播経路の早期特定、その排除が感染終息への対応策の基本となるが、起こっているアウトブレイクが内因性感染の多発例であったとすれば、これはむしろ感染を誘発する医療行為への対応が必要になる。また、起因微生物によっては内因性感染源の調査(保菌部位の特定など)と保菌者への対応(除菌の必要性)が求められることになる。
  このことを深在性真菌症に当てはめて考えてみよう。最も多いCandida感染症は内因性感染、Aspergillus, Cryptococcusは外因性感染と一般的には区分されている。しかし、近年の分子疫学的解析によると、同じCandidaでもCandida albicans感染症は確かに遺伝的背景の多様な株によることが多く、単一クローンによるアウトブレイクは稀で、C. albicans感染症の多くは内因性感染と判断されている。一方、Candida glabrata, Candida parapsilosisでは共通クローンによる外因性感染アウトブレイクを示唆する事例が少なくない。  
  表1に過去に外因性感染と判断されたcandidiasisの報告をまとめた。ここではCandida albicansの報告が一見すると目立っている。しかしながら、Candida albicansでは内因性感染が主要な感染源である報告の方が圧倒的に多く、事例数全体に占める外因性感染の比率はむしろ低い。危険因子としてはカテーテル挿入、長期の抗菌薬投与、長期入院などが複数の報告で関与が指摘されている。アウトブレイクを起こした病棟はNICUから高齢者病棟まで様々であるが、比較的小児・新生児病棟が多いようである。

表1 外因性Candida感染症報告例

菌種
対象疾患
年齢層
病棟
症例数
感染源
危険因子
文献
C. guilliermondii BSI
成人
外科
病棟
5
CVC カテーテル挿入 EJCMID 2003; 22: 686
C. glabrata BSI
小児
小児
病棟
12
哺乳瓶? 長期入院、2種以上の抗菌薬投与 Mycoses 2001; 45: 470
C. glabrata 保菌者 UTI
成人
ICU
5
環境? 長期入院、
抗菌薬投与
JCM 1998; 36: 421
C. parapsilosis BSI
小児
NICU
1
看護師の手 結膜炎 JCM 2002; 40: 2263
C. parapsilosis BSI
成人
不明
5
点滴
ポンプ
点滴ポンプ使用 JID 1984; 149: 98
C. parapsilosis BSI
小児
NICU
26
不明 fluconazole投与、
保菌
JCM 2005; 43: 2729
C. albicans BSI
成人
外科
病棟
8
CVC カテーテル挿入 JCM 2006; 44: 218
C. albicans BSI
小児
NICU
3
不明 抗菌薬投与、
低出生体重児
DMID 1995; 21: 191
C. albicans 保菌者
職員
成人
老年科
病棟
44+8
職員? 腎不全、癌、
男性
JHI 2001; 47: 46
C. albicans SSI
成人
循環器
病棟
15
看護師A 手術時の看護師A担当 JID 1995; 172: 817
C. tropicalis BSI
成人
不明
9
CVC カテーテル挿入、
抗菌薬投与
ICHE 2004; 25: 634

外因性感染を起こすCandidaの由来とその定着

 では、外因性感染を起こすCandidaはどこからやってくるのであろうか。Candidaの中でC. parapsilosisは皮膚や異物に定着しやすく、カテーテル感染などへの寄与が特に大きいことが知られている。Bonassoliらは興味深い報告を行っている。これによると62名の病院職員(輸血部、検査室、NICU勤務看護師)と医療関係でない健常者24名の手の培養検査を行い、いずれも半数以上から酵母が検出され、その約半分はC. parapsilosisであった1)。医療従事者の手に常在菌として定着していれば、接触感染によるアウトブレイクを起こすことは当然である。
  更に血液やカテーテル関連感染由来のC. parapsilosisは手などの常在部位から検出される株に比べてスライム産生性が高く、バイオフィルムを形成しやすい2)。また、Laffeyらは同じC. parapsilosis株の中に、バイオフィルム形成能、仮性菌糸の伸張状況、発育速度、YPD寒天上でのコロニー性状、培地への食い込みなどが異なる少なくとも4つの表現型が存在し、それぞれがスイッチしうることを示した3)。この表現型の変化にはquorum sensingの関与が示唆されている。このことからC. parapsilosisは環境の変化-即ち、手からポリスチレンなどのカテーテル表面に移った場合-に素早く対応して、自身を適応させ、その場所に定着しうる姿に変える能力を持っている真菌といえる。今後はC. parapsilosisの定着しにくいカテーテルの開発なども必要になるかも知れない。
  また、Candidaは比較的乾燥環境でも長期に(例えば、C. glabrataでは102-150日)生存することが知られており4)、病棟のカルテ、コンピューターキーボード、温度板、カーデックスなど頻繁に手の触れる場所に、感染性を保ったまま、定着しうることになる。 ブドウ球菌に例えて言えば、C. albicansStaphylococcus aureusとすれば、C. parapsilosisの存在意義はStaphylococcus epidermidisの位置づけにあたるのかも知れない。今後の更なる研究の進展が期待される。

文献

  1. Bonassoli LA., Bertoli M., Svidzinski TIE.: High frequency of Candida parapsilosis on hands of healthy hosts. J. Hosp. Infect. 59: 159-162, 2005.
  2. Kuhn DM., Mukherjee PK., Clark TA., Pujol C., Chandra J., Hajjeh RA., Warnock DW., Soll DR., Ghannoum MA.: Candida parapsilosis characterization in an outbreak setting. Emerg. Infect. Dis. 10: 1074-1081, 2004.
  3. Laffey SF., Butler G.: Phenotype switching affects biofilm formation by of Candida parapsilosis. Microbiology 151: 1073-1081, 2005.
  4. Kramer A., Schwebke I., Kampf G.: How long do nosocomial pathogens persists on inanimate surfaces? a systematic review. BMC Infect. Dis. 6: 130-137, 2006.