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No.18 (2020.05)

3因子組換え因子試薬、パイロスマートPyroSmartの局方エンドトキシン試験法への適用可能性

明田川 純氏写真
生化学工業株式会社
事業推進本部 海外事業推進部
明田川 純
Jun AKETAGAWA, Ph.D.
1. はじめに

   パイロスマートPyroSmartは、エンドトキシンにより開始されるカブトガニ血球抽出液(ライセート)中の凝固反応カスケード構成因子であるC因子、B因子および凝固酵素前駆体の3つの組換えタンパク質から構成されるエンドトキシン測定用の組換え試薬で(図1参照)1)、生化学工業(株)が2015年より発売しています。最近、PyroSmartとライセート試薬との性能を比較し、薬局方エンドトキシン試験法(Bacterial Endotoxins Test, 以下BETと略記)への適用可能性について検討した論文が日本薬学会発行の学術雑誌(Biological and Pharmaceutical Bulletin)に掲載されました2)
   本稿ではその内容を紹介し、この組換え試薬が今後薬局方のエンドトキシン試験法に使用できるようになる見通しについて述べます。

図1.ライセート試薬と組換え試薬によるエンドトキシン測定原理

(クリックで拡大します)

2. 各種エンドトキシンに対する反応性の比較

   異なる菌株に由来する各種エンドトキシンに対するライセート試薬の反応性には、10倍以上の差があることがあり、更にこの反応パターンは各種ライセート試薬間で一定ではないことが知られています。そこで本論文では、標準エンドトキシンに対する大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌、緑膿菌等の13菌株由来のエンドトキシンの相対力価(EU/ng)を、PyroSmartと3種のライセート試薬(Endospecy, Kinetic-QCL, Limulus ES-II)を使用した場合とで比較しました。なお、これらライセート試薬は日本薬局方エンドトキシン標準品のWHOエンドトキシン標準品に対する力価標定に使用されている試薬です。
   PyroSmartは反応速度法と反応時間法の両法で測定可能ですが、両法で得られた13種のエンドトキシンの力価は、いずれも3種のライセート試薬での測定値の最小値の50%~最大値の200%の範囲内に収まりました。また、比較する二つの試薬で得られた力価をX-Yプロットし、回帰直線の傾きおよびy切片がそれぞれ1と0と有意差があるかどうかを統計的に評価しました。その結果、解析法が2試薬とも反応時間法あるいは反応時間法である限りは、PyroSmartとライセート試薬での測定値間に危険率5%の水準で系統的な差はありませんでした。

3. 分析能パラメーターの評価

   分析法バリデーションで評価が求められているパラメーターである、直線性、真度、精度(併行精度、室内再現精度、室間再現精度)、範囲、定量限界のほか、特異性として(1→3)-β-D-グルカンへの反応性ならびに各種注射剤に添加したエンドトキシンの添加回収率を検討しました。
   その結果、直線性と真度は、BETで定める判定基準を満たし、精度は、厚労省のガイドライン3)で定める判定基準を満たし、範囲は反応速度法で0.00625-0.1 EU/mL、反応時間法で0.005-50 EU/mLであり、定量限界は、反応速度法で0.0016 EU/mL(95%上側信頼限界)、反応時間法で0.005 EU/mL以下と算出されました。
   特異性としては、(1→3)-β-D-グルカンに反応しないことが確認され、日本薬局方に収載されている注射剤のうち入手できた109品目については、3種のライセート試薬同様に、全て最大有効希釈倍数以内の希釈倍数で、反応干渉なしに測定できることが確認されました。

4. PyroSmartと他の組換え試薬ならびにライセート試薬との比較

   典型的なグラム陰性菌である3菌株のエンドトキシンを3種の組換え試薬(PyroSmartは2測定モードで算出、PyroGene、EndoZyme)ならびに6種のライセート試薬(Endospecy、Pyrochrome、Kinetic-QCL、Endochrome-K、Limulus KY Test、Limulus ES-II)間の測定値の同等性をF-検定とt-検定に基づき検討しました。その結果、3種のエンドトキシンの何れにおいても組換え試薬とライセート試薬間で、力価の分散に差はなく、また平均値に有意差は認められませんでした。
   また、組換え試薬3種及びEndochrome-Kを除くライセート試薬5種のそれぞれ3ロットを用いて、反応干渉の程度が異なる27種の注射薬へのエンドトキシンの添加回収試験を実施し、反応干渉を受けない最小希釈倍数(NID)をそれぞれ3ロット間で比較しました。その結果、3種の組換え試薬のNIDは5種のライセート試薬のNIDと同じかそれ以下でした。またNIDのロット間差は、4種のライセート試薬では計7種の注射剤で8倍を超えましたが、組換え試薬ではすべて4倍以内でした。

5. 局方エンドトキシン試験法への適用可能性

   以上の評価結果より、PyroSmartは、各種エンドトキシンに対する反応特異性、真度、精度などの各種分析能パラメーター、ロット間差の少なさの点で、従来のライセート試薬と同等あるいはそれ以上の性能を有しており、ライセート試薬の代替試薬として使用可能であることが示唆されました。
   日本薬局方では、通則において、規定の方法以上の真度および精度がある場合は代替試験法を用いることができるとされています。米国薬局方(USP)及び欧州薬局方(EP)では、エンドトキシン試験法のチャプターやエンドトキシン試験法に関するガイドライン(USP<85>改定案, <1085>, EP 5.1.10)において組換え試薬をライセート試薬の代替品として使用することを認めています。ただし、事前に同等性についてのメソッドバリデーション(USP <1225>)が必要とされています。バリデーションには、反応特異性など一部は論文や報告書ならびに試薬製造メーカーからの情報が利用可能ですが、測定精度や定量限界は各試験施設や試験者に依存するため各施設での評価が必要と思われます。

文献

  1. Mizumura H, Ogura N, Aketagawa J, Aizawa M, Kobayashi Y, Kawabata S, Oda T. Genetic engineering approach to develop next-generation reagents for endotoxin quantification. Innate Immunity, 2017; 23: 136-146.
  2. Muroi M, Ogura N, Mizumura H, Aketagawa J, Oda T, Tanamoto K. Application of a recombinant three-factor chromogenic reagent, PyroSmart, for bacterial endotoxins test filed in the Pharmacopeias. Biol. Pharm. Bull., 2019; 42: 2024-2037. DOI:10.1248/bpb.b19-00517
  3. 厚生労働省医薬食品局審査管理課、医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法(リガンド結合法)のバリデーションに関するガイドライン(2014年4月)
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